・深夜特急 沢木耕太郎著
この本を知ったきっかけは、正月特番のテレビ番組だった。
大沢たかお主演の番組で、世界各地を旅していくお話。
まだそんなに売れていない時の松嶋奈々子が彼女役として登場もする。
仕事にケリをつけ、有り金を全部トラベラーズチェック(旅行小切手)に替え、
インド・デリーからイギリス・ロンドンまで乗合バスで行くというのが話の大筋である。
テレビを見ておもしろいと思い、原作を読んで驚いたことは、この話がフィクションではないということだ。
著者沢木耕太郎の実話であると知り、「こんなことが可能なのだろうか?」と強い衝撃を受けた。
この本ははっきりいって「麻薬」である。
一度読んでみればわかるが、この本を読んだら、今の自分の立場を何もかも投げ捨ててすぐにでも旅に出たいと思うだろう。
いわゆる「海外旅行」ではなく「放浪の旅」。
普通の短期間の旅行にはない旅のおもしろさが存分に描かれている。
特にそれが作り話ではなく実際の話であるということが、圧倒的なリアリティーを持って読者に迫ってくる。
それが旅への衝動を強烈に駆り立てるのだ。
この本を読んだのはちょうどエジプト旅行に行った時だった。
いつか自分もこんな旅をしてみたいと思ったが、もう大学生を卒業し社会人になる自分に、こんな旅はできないだろうなと思っていた。
ところがその2年後。
僕は冬休みにインド旅行を計画していたが、年末の仕事の無理がたたりインフルエンザで倒れ、旅行2日前にキャンセルせざるを得なかった。
せっかく楽しみにしていた旅行がいけないことで、無為な正月休みを落ち込んで過ごしていた。
その時の無念さといったら大変なものである。
日々の仕事を頑張っているのは堂々と休みを取って旅行に行くためだった。その旅行がいけなくなってしまったのだ。
暇になると人はいろんなことを考える。
僕はその時、考えた。
世間体やらしがらみやらを考えず、ただ自分が一生のうちにどうしてもしたいことって何だろうか?
その時、僕は迷わず「深夜特急のような旅をしてみたい」と思った。
じゃあ行くと仮定して計画を立ててみるかと、
「深夜特急へ乗りたい人たちへ」とサブタイトルのついた旅行人の「アジア横断」というガイドブックを買ってみた。
それが旅への発端だった。
ガイドブックを見ているうちに「行けるな」と思うと同時に「今しかない」と思った。
そして僕は半年後に会社を辞めて深夜特急のような旅をするための準備を着々と進めていったのである。
人生を変えた本。この本に出会わなかったら僕の人生は全く違ったものになっていただろう。
「深夜特急」に出会えたおかげで、僕は4ヶ月のアジア放浪をすることができ、転職もした。
人の人生を変えてしまうほど「魔力」のあるおすすめの本が、この「深夜特急」だ。
こういう本に出会えるというのは偶然にしろ何にしろ、幸せなことだなと思う。
無名 沢木耕太郎
私は沢木さんが好きだけど、それでもこの本は読むに値しないつまらない本だと思う。
沢木オタク的な一部の人が沢木研究のために読むための資料だろう。
無名というのは彼の父のことを書いているんだけど、
彼がいつも書く人物ノンフィクションのような丹念な取材で積み上げた圧倒的なシーンの再現性がなく、
ようは彼の思い出の父、父の闘病生活という域を出ず、
他人が読む作品にはなりえていない。
ようは日記なのだ。
彼のよさがまったく出ていない正反対の愚作。
こういうのを「沢木耕太郎著」という名前を出せば売れるだろうという、
いやらしい出版社の意図が見え隠れしていやだな。