丸山真男 By 書評ランキング

・「現代政治の思想と行動」 丸山眞男著
この本と出会ったのは高校3年生の11月頃。「政経」の授業で本の一部がコピーされて配られたのがきっかけだった。
大学受験を間近に控え、日本史や世界史で受験する人が多かったので、政経の授業は誰もろくに聞いていなかった。
僕も受験科目に関係のない授業は、さぼったり他の勉強をしたりしていたが、なぜか政経の授業はおもしろく聞いていた。

それは僕が中学の頃からずっと、漠然とだが「政治」ということに興味があったからだろう。
またこの先生の政経の授業は、受験勉強用の教科書棒読み丸暗記授業ではなく、
時事問題や生きた材料を使っての大学の講義のような授業だったので、興味を持って聞いたのだと思う。
そんな時に授業の教材として、丸山眞男の『現代政治の思想と行動』の一部分のコピーが配られたのだ。

その時、この本が政治学における名著であるということは全く知らなかった。
配られたのは『超国家主義の論理と心理』と題されたもの9枚だった。
僕は冒頭2、3行を読んで大きな衝撃を受けた。
なぜ日本が太平洋戦争という無謀なものに突っ込んでいったかが未だに解明されていない、と問題を突き付けられた。
日本史が好きで得意だと自負していた僕は、その問題提起に答えることができなかった。

なぜだろう?なんであんな無謀な戦争をしたのだろうか?僕はそんなことも知らなかったのかと、自分の無知を思い知らされたのだ。
わずか9枚の論文は、見事に戦争へ突入していった構造を明らかにしていく。
その見事さと切り口の鋭さに、大きな衝撃を受けた。
「これだ!僕がやりたいことは。こういうことを勉強したいのだ。」と思ったのである。

この本に出会って、僕は受験まであと4ヶ月しかないというのに進路変更をした。
ただ漠然と地方の国立大学に行きたいと思い、センター試験の5教科と2次試験の英・国・数を勉強していた。
学部はどこでも良かった。
しかしこの本に出会って「政治学」を勉強したいと思い、政治学科があるところを受けようと思った。
政治学科があるところは私立しかない。また数学の2次試験の勉強をするより、私立用の詳しい日本史を勉強したいと思った。
ということで高校3年の11月になって国立から私立に変更したのである。

今まで勉強したセンター試験用の5教科の勉強はもちろん無駄。国立用に勉強していた2次試験の数学の勉強も無駄。
あわてて私立受験勉強に切り替え、英・国・日本史で受けることに変更した。
それはすべて丸山眞男の『現代政治の思想と行動』に出会ったからである。
「政治学」を勉強したい。丸山眞男の本を読み解き、自分でもあのような論文を書いてみたい。
なぜ日本が無謀な太平洋戦争をしてしまったのかということを理解したい。
その一心で今更になってだが、国立から私立への進路変更をしたのである。

「政治学を勉強するために大学に行きたい」という明確な目標ができると、
今まで仕方なしにやっていた受験勉強を前向きな気持ちでやれるようになった。
まして、今まで国立の勉強しかやっていないという焦りが、必死に勉強に向わせた。
12月に受けた模試で志望大学の判定はE評価(見込みなし)だったが、見事に現役で合格した。
それは、丸山眞男の『現代政治の思想と行動』と出会ったからだと思う。

大学入学後、僕は早速、図書館で丸山眞男の『現代政治の思想と行動』を借りて読んでいった。
600ページ近い論文集で、意味のわからない単語や難しい単語が多いから、読み進めていくことに恐ろしく時間がかかった。
全部読み終えるのに1年がかかった。
満足した読後感を味わうと同時に、他の著作や関連文献も読まなければと新たな課題を感じた。
そして迷いに迷った末、大学の生協で定価3605円あまりもする『現代政治の思想と行動』を買ったのである。
僕の座右の書としていつでも見れるように。

今でも僕の机の書棚にはその本が飾られている。僕の人生を変えた本として。
こういう本との劇的な出会いがまたあればいいなと思う。