・「沈黙の艦隊」 かわぐちかいじ
世界を舞台にしたリアリティーある近未来シュミレーションマンガ。
主人公である「天才カイエダ」はもちろん、その周囲に出てくる脇役たちの個性豊かなキャラクターが、
実に生き生きとしていることが、この物語の魅力をアップさせている。
米ソ冷戦構造の中、「核の脅威」に揺れる世界。
その中で国際的に微妙な立場に立たされたニッポンが、カイエダに刺激され、
自らの自立を図り、かつ真に世界平和の新秩序作りを進めていく。
国家や国家間のしがらみに縛られた現実世界に新しい世界システムの提案をする、興味深い作品だ。
これだけの将来ビジョンを描ける政治家や評論家、学者もそういないだろう。
国連・自衛隊・アメリカの論理・日本の政治・マスコミ・企業など、
あらゆるファクターが織り成す現実世界の未来シュミレーション物語は実におもしろい。
そのリアリティさは抜群だ。
しかしこの作品後、ソ連邦が解体し、「核の脅威論」というのはなりをひそめてしまったが、
去年はじまった「アメリカ大国テロリズムVS小集団テロリズム」の戦いが、世界各地に飛火し、
あちこちにきな臭い種子をばらまいている情勢を考えると、
このマンガのテーマ「核」を「テロ」に置き換えて読んでみると、実に示唆的な物語になる。
・「ブッダ」手塚治虫著
多分、この1、2年、手塚ブームが起きるんじゃないかとふんでいる。
鉄腕アトムが生まれたのが2003年ということもあり、
(それにあわせてオープンしようとしている川崎市の手塚ワールドは、建設予定が大幅に伸びているが)
またなんといっても21世紀になっても人類が、20世紀に描いたような近未来社会になっていないこと、
また20世紀に予想されたように、自然を破壊し、人間性が損なわれた機械社会になりつつあるということで、
手塚マンガが見直されるのではないかと思うからだ。
このマンガ「ブッダ」。
僕自身の正直な感想は、まあいまさら読む作品ではなかったかなということ。
全12巻のテーマは、メメント・モリー死を想えーである。
27歳の僕にとってそのようなテーマを考えるには、文章や藤原新也の写真であれば十分なわけで、
わかりやすく、おもしろおかしく、絵にしてかみ砕いて描いたマンガは幼稚すぎるかなと。
この作品はもっと低年齢が読むのにいいだろう。
きっと小学生ぐらいが一番読者ターゲットとしてはいいのではないか。
まあただ昨今の日本人の大人は、高学歴なわりに非常に頭が幼稚化しているという、
パラドックスにおちいっているので、マンガで学ぶにはよいかもしれない。
とはいえ、この作品を読んで改めて、生と死、そして自然の中の人間ということを考えさせられた。
死は恐いものではなく、いつかやがてくるもの。
死を恐れていてもはじまらない。
生き物である以上いつかは死ぬことを知った上で、精一杯生きていくことの大切さはよく伝わってくる。
また改めて人間は動物界の王でもなんでもなく、自然の一部なんだということを再確認した。
ただここで納得がいかないのは、犠牲的精神だ。
確かにやられたらやりかえすのはよくないというのは、アホバカ今のアメリカを見れば明らかだが、
とはいえ、たとえば動物が飢えて死にそうだから、自ら餌となって食わせてやるというところまでいくと、
ちょっとそれは行き過ぎかなと思わざるをえないかな。
またブッダ自伝ではあるが、必ずしも史実にのっとっているわけではないので、
歴史的勉強にはあまりならない。
まあ藤原新也を読んで「死」を考えることが難しい人にとっては、わかりやすい本ではないか。
小学生におすすめの本だな。