山田詠美・書評 By 書評ランキング

僕は勉強ができない
偏差値62

山田詠美はおもしろいと勧められていながら、ずっと手をつけないできた。
その理由は、女性が女性作家を勧めていたからだ。
女性が好きな女性作家の「いかにも」という小説は、
女性が読めば女性心理が見事に描かれていておもしろいのかもしれないが、
男性から見ると理解できないというかおもしろく感じられないものが多い。
だから勧められていたにもかかわらず、なかなか読まずになっていた。

そんな山田詠美を会社の男性社長が勧めてくれたので、読んでみることにした。
とても読みやすく、文章がうまいなと思った。
しかも男性が主人公で私にとっても読みやすかった。

導入なんかも実にうまい。
高校生の男の子が主人公で、大人が決めたルール、学校が決めたルールに、
悪気があるわけではないのだが、直感的におかしいと思うから、
つっかかっていく。
そんな虚をつかれて戸惑う大人たちの姿を描いていて、ある種の痛快さがある。

ただずっとそんな感じで読み進めていくと、なんだかイヤミに聞こえてきてしまう。
主人公が呈示しているのはコインの表裏の一面に過ぎない。
確かに大人の考えもおかしいが、あんたの考えもおかしいんじゃないか。
それを「正しい」というのは逆の意味でこの本の趣旨である、
常識を疑うという姿勢と矛盾していて、
ようは著者の価値観を子供の主人公を使っていわせているわけではないかと。

そんなイヤミに感じたところで、この主人公に対する疑問符が投げかけられる。
そのタイミングが絶妙だった。
大人にえらそうなこといっているくせに、自分の人生、進路すら自分の考えがない。
主人公自身の心理の揺らぎが出てきて、そこで前半の鋭い批判とのバランスがとれ、
そして高校生としてのリアリティが出て、
単に一方の価値観の押し付けではないんだなということがわかる。
非常に読みやすい書で、ちょっと皮肉がきいていて、なかなかいい本だと思う。