ハワイのビーチリゾートホテル25階。
部屋には海が見えるテラス。
絶好の景色をカメラに収めようと、
テラスから身を乗り出す。
高層階だがたいした柵はない。
眺望への配慮なのか、
アメリカ式自己責任が貫かれたシステムからか。
風が強い。
ヤシの木が斜めに揺らいでいる。
今日の予報は風速9m。
連日のように風が強い。
屋根のない眺めのよいレストランテラスには、
風が強すぎて人がいない。
下を見て驚く。
地上まで真逆さまだ。
ふと思う。
ここから落ちたらどうなるだろう。
夢を見る。
ひょいっと落ちる。
その決断、ほんの一秒。
生きていくことの、
すべてのわずらわしさから、
これで逃れられる。
悩みも苦労もない。
がんばる必要もない。
自殺って、案外、衝動的なものなのかもしれない。
まさに「悟り」の極致。
死ねばすべてが解決できるという、
恐ろしいほどの誘惑。
美しいビーチを見ながら、
なぜか悲しいと思う。
高層ホテルと眩いビーチに生活感がない。
当たり前の話だ。
リゾートに生活臭なんて誰も望んでない。
だから、死への誘惑が、
ぱっくりと口を開けている。