ラダック最終日。
主要なゴンパ巡りを終えて時間があったので、
どこか見るところはないかなと思ってガイドブックを見ていると、
レーから10kmのところにチベット難民キャンプがあるという。
学校があって子供たちがいっぱいいると書いてあったので、
子供の写真がいっぱい撮れそうという、
ただそれだけの理由で、
とりたてて政治的な意味がわるわけでもなく、
行ってみることにした。
難民キャンプといっても、
きちんとした建物があるきれいな施設。
中国本土から逃れてきたチベットの人たちが住んでいる町のようだ。
キャンプ入り口にいるチベット人のおじさんが、
「タシデレ」と挨拶したのを聞き、
「ここは本物のチベットだ!」と私は思った。
タシデレとはチベット語でこんにちは。
ところがラダックにいる間、タシデレは一度も使っていない。
ラダックに住むチベット人は本土のチベット語とは、
違う言葉も多く使い、挨拶は必ず、「ジュレー」なのだ。
何度となくゴンパを訪れる度に、
「ジュレー」を口にしてきたが、
久々に「タシデレ」という言葉を聞き、
まさにここはチベットなのだなと思ったわけだ。
キャンプに入るには簡単な登録がいるという。
オフィスにいき、「子供の写真を撮りたい」というと、
オフィスのおじさんは厳しい口調で問い詰めた。
「何のために撮るんだ」
「何に使用するんだ」
「なぜ子供の写真を撮るんだ」
私はこのような質問を受けるとは、
まったく思ってもみなかったのでたじろいでしまった。
単に子供の写真を撮りたいでは、
政治的亡命を余儀なくされた、
チベット難民キャンプでは許されないことなのだ。
私は動機の不純さを反省しながら、
ただ普段、私がチベットに対して思っていることを、
思いつく限りの英語で説明した。
「私はチベットを何度となく訪れている。
中国のチベット弾圧政策はひどいと思っている。
日本でも北京五輪をきっかけに、
チベットに対する関心が高まっている。
難民としてラダックに逃れてきた子供たちがいることを、
写真を撮影して日本人に知ってもらい、
さらにチベット問題に関心を持ってもらい、
チベットの平和に寄与したい」
だいたいこのようなことを、二度繰り返し説明した。
日本語だが自分の名刺も出し、
かさこワールドのURLを示し、
「ここを見てもらえれば、
チベットの子供たちがいっぱい写っているのがわかると思う」とも説明した。
するとオフィスのおじさんの厳しい表情は和らぎ、
とてもやさしい表情になって、
「そのような理由であれば、
敷地内でいくらでも撮影してもかまわない」
とOKしてくれて、最後は握手の手を差し出してくれた。
学校にいる子供たちは、
難民という立場でありながら、
みな元気すぎるほど元気で、
カメラを向けると大変な騒ぎになって、
われもわれもと子供たちが集まってきた。
はじめにも書いたが別に政治的な意図があって、
この難民キャンプを訪れようと思ったわけでもなく、
たまたまゴンパ巡りが3日で終了し、
時間があいたからに過ぎなかった。
でもそのおかげで難民キャンプに行けて、
とても貴重な体験ができ、よかった。
日本では安易なフリーチベットと、
理解のない嫌中感情が鬱積していて、
それは私はチベット問題の解決には何の役にも立たないと思っている。
下手をするとむしろ悪化させかねないともいえる。
中国のチベットを何度か訪れ、
そして今回、インドのチベットを訪れたことのある立場から、
機会を見て、チベットについて語っていきたいと思っている。
ただ、思うのは、
私が何万字、チベット問題について語ろうとも、
もしかしたらチベットの子供たちの写真1枚の方が、
はるかに感じるところが多いのではないかとも思っている。
海外子供写真